[126]K'SARS
注:この話しはP.E.T.Sと天使のしっぽのストーリが混じっています。
流れ星に願い事をすると願いが叶うと言われている。 さて今回は、誰がお願いをするのかな?
「こんな寒い日に、土遊びですか?」 夢を見ていた。 冬がせまり、動物たちが次々と冬眠していくのに、1匹だけその機会を失った亀を、僕は近くの公園の木の下に寝床を作っていた。 そんなとき、背後から声をかけられた。 高校生ぐらいの女の人で、のんびりとした雰囲気の持ち主。 彼女は僕が亀を木の下に埋めているところを見ると、何かを考えた後、すぐ側のベンチに座って持っていたスケッチブックに鉛筆を走らせた。 数分後。 彼女はスケッチブックの1ページを破いて、僕にくれた。 そこには、冬眠から覚めた亀を、僕が抱き上げているところだった。 「春になったらこうなるんじゃないかって思って、書いてみました」 笑顔で、彼女はそう言った。 亀を木の下に埋めてからも、女性とは頻繁に会って、春に出てくる『アユミ』のことを話した。 そう、期待の詰めこんだ話しを。 でも、それは絶望と変わる。 春になって、そろそろ起きてくれるであろうアユミを彼女と一緒に公園に迎えに行ったら、そこにはシンボルの木が切り倒されていた。 土は抉られていて、木があった場所もショベルカーで掘り返されていて、僕はあわててあゆみを探したけど、見つける事はできなかった。 工事を再開しようと僕をどかそうとする大人たちに、僕は知らないうちに殴りかかっていた。 もちろん逆にやっつけられて、女性が助け舟を出して公園から出て行くときには、全身痣だらけになった。 そんな僕に、彼女は、 「これ、あのときの絵に付け加えてみました」 1枚の絵を差し出してくれた。 そこには、僕が最初にもらった絵に、彼女が横で微笑んでいた。 それを見たとき、堪えていた悲しみ一気に出て、いつの間にか彼女の胸に飛び込んで、泣いていた。 懐かしくて悲しい、3つ目の、思い出。
目を覚ましたとき、そこは見なれた天井があった。 今住んでいるアパートの天井じゃなくて、実家のつるや旅館の天井。 そう、僕は実家に帰ってきていた。 旅館の方が突然忙しくなって、アルバイト代をやるから帰って来いという母さんの強引なアプローチがあって、動物病院のお盆休暇を利用して3日の予定で帰ってきた。 もちろん、僕1人ではない。 守護天使のみんなも一緒に来ていて、今は僕の横で雑魚寝している。 しかし、随分と懐かしい夢をみたな。 もう17年も前になるのか。 きっと、『あれ』が送られて、部屋を探したときに『あれ』を見つけたからかな。 起き上がって、客室の窓から夜空を見上げる。 あのときに貰った、僕とアユミの映っている絵と、前の絵にあのときのお姉さんが加わった絵。 もうずいぶんと古くなってきたけど、あのころの大切な思い出としてとっていたのを見つけた。 本当、懐かしいな…。 「ご主人様、どうかなされたんですか?」 「アユミ…」 声をした方を向くと、そこには当時のお姉さんの姿をした守護天使、カメのアユミが立っていた。 「何でもないよ。ただ…」 「ただ?」 「ちょっと、懐かしい夢を見たんだよ」 「そうですか…」 「…ねえ、アユミ」 再び自分の布団に寝ようとしたアユミを、呼びとめた。 「どうかなされました?」 「部屋、来ない?」 「ご主人様の、お部屋ですか?」 「うん」 「…わかりました」 僕はアユミを連れて、客室を出た。 自室から客室までそんなに離れていないので、すぐに着いた。 電気をつけると、なんだかアユミは頬を赤くしていたけど、僕は気にしないで机の引出しを開ける。 「これを、見てほしかったんだ」 机の中から、昨日整理して見つけた絵をアユミに見せた。 「これって…」 「そう。僕とアユミの再会を想像して書いてくれた、きみのオリジナルの人の絵だよ」 「私のオリジナル。あの方が、この絵を…」 「うん。優しい絵だろう?」 この絵をもらったとき、僕はしばらくこの絵に思いをめぐらせていた。 春になって、この手でアユミを再び抱き上げる瞬間を想像して、床についていたのだ。 「僕はね、現実にこうなるって思っていたんだ。それはお姉さんも同じだった思うんだ。でも、あんなことになってしまった」 「ご主人様…」 「きっと、今のアユミを見たら、お姉さんは嬉しがるだろうな」 うん、きっと喜んでくれるだろう。 そして、僕とアユミの絵を書いてくれただろう。 でも…。 「あの、今、私のオリジナルの方はどこにいらっしゃるんですか?」 「…天国だよ」 「あっ、ご、ごめんなさい。私ったら、ご主人様の思いを考えずに…」 「いいよ。僕だって、昨日知ったんだから」 今回帰ってきたときに、父さんから1通の手紙と大きな封筒が渡された。 最初に手紙を読んでみると、そこにはお姉さんの旦那さんから、彼女が死んだことが告げられていた。 死因は、圧死。 詳しくは書いていなかったけど、奇しくも、アユミと同じ死因だということだった。 「手紙で知ったとき、僕はすぐにこの絵を探したよ」 「それが、この絵」 「そう。けど、これだけじゃなかったんだ…」 僕は机の1番奥の引き出しに入れていた大きな封筒をアユミに渡した。 「開けてごらん」 「はい…」 アユミが大きな封筒を開けると、中からスケッチブックが入っていた。 今時のではなく、当時彼女が使っていたものらしい。 その証拠に、直筆の名前が書いてある。 「川澄、麻衣…」 「アユミのオリジナルの人の名前だよ。中に、すごいものが書いてある」 「…拝見しても、よろしいですか?」 「もちろん」 ページをめくったアユミは、口元に手を当てて、涙ぐんでいた。 僕も、これを見たときにはアユミと同じになった。 それほど、最初のページには僕たちにとっての重要な意味を持っていた。 「私のオリジナルの方が、こんな風に、私やご主人様のことを思ってくださっていたなんて」 「…アユミ。このスケッチブックは、アユミに持っていてほしいんだ」 「えっ? でも…」 「僕が持っているよりも、アユミに持っていてくれたほうが、きっと、お姉さんも喜ぶと思う」 故人を引き合いに出すのはあまり好きじゃないけど、僕が持っていたって宝の持ち腐れだから。 アユミはそんな僕の気持ちを察してくれたのか、 「ありがたく、頂戴しますわ」 僕に深く頭を下げて、大事そうにスケッチブックを抱きしめる。 その姿は、昔に僕が見たお姉さんそのものだった。
「あっ、流れ星ですわ」 「本当だ」 夜空を見上げたら、星が目の前で流れていった。 ここはよく星が見えるな。 「ご主人様。確か、流れ星に願い事をすると、願いが叶うと言われていますわよね」 「そう聞いたことがあるな」 「私は守護天使なので、そういうことはしないのですが、今日だけ、今日だけは1人の女性として、してもいいと思われますか?」 「いいと思うよ。アユミだって、1人の女性なんだからさ」 「それでは…」 アユミはスケッチブックを抱きしめながら、再び落ちてきた流れ星に願い事をした。 僕はお姉さんの冥福を祈った。 「ご主人様」 「うん?」 願いを終えたアユミが、そっと僕の肩に頭を乗せた。 ベレー帽が、少しだけ傾く。 「私、麻衣さんの分まで、このスケッチブックにたくさんのご主人様のとの思い出を詰め込みますわ」 「うん」 「他の、ミカちゃん以外の守護天使のみなさんとの思い出も詰め込みたいですわ」 「あはは」 「それから、それから…」 「…アユミ?」 たくさんの夢を語ったまま、アユミは眠りについた。 僕は近くに敷いてあった布団までアユミを移動させて、そして、一緒に眠った。 夢を見ている。 僕とアユミと、お姉さんが一緒に、あの公園でのんびりと和んでいる夢を。 決して叶うことがないと思っていた、アユミとお姉さんとのツーショット。 僕は、彼女たちのスケッチのモデルになって、陽の当たる場所で、長く座っている。 少しのずれも決して見逃さず、黙って座ることを強要される。 でも、それが終わると、2人がおいしいサンドイッチと紅茶をごちそうしてくれる、そんな夢を。 夢を見ている。 どこにでもありそうな、もう叶わない夢を。 でも、僕はこれから作っていきたい。 僕の大切な家族と、その場面を書いてくれる、もう1人の川澄麻衣がいつでも帰ってこれる、暖かい場所を。 手伝ってくれるよな? なあ、アユミ。
流れ星に願い事をすると願いが叶うと言われている。 さて、次回は誰がお願いをするのかな?
<終>
後書き♪ ふう〜、完成。 「ご主人様にしてはめずらしくシリアスですね」 まあ、アユミを書くときは最初からシリアスものだということにしていたからな。 「ところで、どの辺にP.E.T.Sが入っているんですか? 名前はしっぽの方ですけど」 アユミのオリジナルの女性の設定が、P.E.T.S版なんだ。 本当は全部、P.E.T.Sでやっていきたかったんだけど、内容はほとんど知らないから、最初だけP.E.T.Sの設定で、あとは天使のしっぽなんだよ。 「だから、混ざってあるって注意書きをしたんですね」 まあ、そういうこと。 「それにしても、川澄麻衣って…」 …これしかうかばなかったんだよ。 他にいい名前がなくてさ。 「まあ、いいですけどね」 うむ、人生前向きにだ。 さて、今回はこの辺で。 K'SARSと、 「ハトのサキミでした〜」
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2003年09月29日 (月) 11時26分
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